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今夜のジュークボックス

今夜のジュークボックス

ロックンロールの出現 

2016.12.15  writer:

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14歳の真夏のある午後、僕の部屋に突然、彼がやってきました。

ずうずうしくもいきなり土足で、彼は僕の部屋にあがりこみ、「今日からここに住むよ」と言ったまま、まるでドラえもんのように部屋の押入れに住みはじめたのです。

彼はある時はエレキギターに、そしてまたある時はマンガやレコードに形を変えました。

僕は誰も友達がいないとき、部屋で彼とあそびました。

他人には言えないひみつの話しもたくさんしました。

そしていつも決まって彼は僕が元気になると、いつも最後はけむりのように消えてしまうのでした。

その晩、彼ははっきりとした人間の形を借りて高円寺のライブハウスに出現しました。

高円寺北口近くにある「ジロキチ」というライブハウスの前を通りがかった僕は、その晩の出演者ボードを見て自分の目を疑いました。

「なぜ?」って子供の頃から僕の部屋の押入れに住んでいた彼の名前がボードに書かれてあったから。

僕は興奮して、ライブハウスの階段を駈け降りていきました。

とても冷静になれる状況ではなかったと思います。

その晩、彼はボ・ガンボスのキョンさんやMOJOクラブの三宅伸治さん達とのセッションナイトで僕はカウンター横の人ごみを掻き分け掻き分け、なんとかすし詰めのホールの一番後ろまでたどり着きました。

モッシュで、狭いホール全体が激震する中、ステージを見ると、ダイブする観客のすきまから一瞬だけ、彼のあのするどい眼光と声が聴こえました。

子供の時からほんと何千回とレコードがすり切れるほど聞いた、あのハスキーボイスと同じでした。

その瞬間、僕はもうワケが分からなくなって理性がきかなくなり、モッシュめがけて突進し、気づけば最前列の中央で、まるでキチガイのようになって踊っていました。

ライブ中、何度か彼と目があったような気がします。

「よお、ひさしぶりじゃねーか。よく来たな」

そんなふうに彼はするどい目つきで僕をにらみつけてきた気がして、僕も決して目をそらしはしませんでした。

ものの30分でライブは終わり、僕はまるで炭酸の抜けたコーラのようになって、ホールの後ろの壁にもたれかかり、へなへなと倒れこみ、今までの短いできごとを思い返していました。

しばらくすると、マネージャーやスタッフと一緒にホール横の楽屋控え室から、かわいらしいニット帽をかぶって彼が出てきました。

出待ちの女の子達が、一瞬で彼を取り囲み「サイン書いてー!!!!」と叫んでいます。

僕はまたへなへなと立ち上がり、ゆっくりとホールの中央で女の子達に囲まれている彼に近づいていきました。

まじかで見る彼はテレビや雑誌で見ていたキバツな表情とはぜんぜん違い、背が高く、異様なほどやせていて単純にナイスガイだと僕はボンヤリ思いました。

近づいたのはいいけれど声もかけれず、男一人でボーっと立ち尽くし、彼のマネージャーやスタッフから僕はよっぽどアブないヤツだと思われたことだと思います。

するとどうでしょう?

驚くことに女の子たちに囲まれた彼の方から、2メートル離れた僕にとつぜん話しかけてきたのです。





「一番前で踊っとった子じゃろう?ひとりで来とったんか?」



「…ハイ!!…

あっ、あの、ボクは……

あなたの歌が大好きで…

…あなたの歌に救われてきたんです…

うまく言えないんだけど、あの……

…あの、今夜みたいなセッションも良かったけど、…

…またブルーハーツもやってください!!!!!!!!!」



「おう、もちろんじゃ!!マーシーも、あの男、今がんばっとるしなー。もちろんじゃ!!」





僕は頭の中が真っ白になって涙があふれて、それだけ言うのが精一杯でした。

だって今までずっとまぼろしだった彼が、本物の人間として自分の目の前に出現したから。

そして最後に彼は



「自分でいればええんよ!!」



と、人懐っこい笑顔と、あのハスキーボイスで僕に言い放ち、スタッフやファンの女の子達にもみくちゃにされながら階段を昇っていき地上に消えてしまいました。

僕は急いでアパートに走って帰り、電話で思いつく限りの当時の友達にこの話を聞かせました。

それから数日後の夜。

アパートでFMラジオを聞いていた僕は偶然、ブルーハーツの解散発表を耳にしました。

あの晩、「(ブルーハーツの再始動も)もちろんじゃ!」といった彼も何もかも、すべてはやっぱり幻想だったのだと当時の僕は思いました。

あれから20年以上がたち、もうブルーハーツでもハイロウズでもクロマニヨンズでも、僕はもう何でもいい気がするのです。



今夜も部屋のスピーカーからは



「自分でいればええんよ」



と、きびしくもやさしく、彼は僕を挑発してくるような気がするのです。




なんにもなかった夜には

真昼の月 夜の太陽

島崎智子 ゆっくりマンボーさん

うつぼ

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